Welcome to Sugino group (ようこそ杉野研究室へ)

本研究室は機能物性研究グループ、物性理論研究部門、附属物質設計評価施設、計算物質科学センターに所属し、数値シミュレーションを用いた物性研究を行っています。研究スタッフは杉野(准教授)と助教2名、ISSPリサーチフェロー2名、ポスドク1名、学生3名(博士課程1,修士課程2)、研究生1名、担当秘書1名の計11名です。

研究概要

当研究室のテーマは、(1)数値シミュレーションによる物質科学研究(2)数値シミュレーション手法の開発です。これらを通して高度な研究を目指しています。

 

第一原理計算とは(What is the first-principles calculation?)

数値シミュレーションによる物質科学

物質は膨大な多様性を持っていますが、その極一部しか知られていないのが現状です。それを補うための強力なツールとして数値シミュレーションが注目されています。計算機の能力が年々指数関数的に伸びるにつれて、新たな研究が可能になっています。

多体摂動論を用いた電子状態計算

計算物質科学の最前線は励起状態にまで拡大しています。多粒子グリーン関数法を用いた計算により励起エネルギーや励起状態の波動関数\Psi\left(  \vec{r}_{e},\vec{r}_{h}\right)などの電子状態の情報が得られるようになったためです。物質内での電子(\vec{r}_{e})と正孔(\vec{r}_{h})の分布がわかると、励起後のダイナミクスを調べることが可能になります。

     
励起(左図)。右図は励起子波動関数の主成分(左は正孔、右は電子)。

これまでは励起ダイナミクスを研究するのに、実験データの解析から導出された模型が主に用いられてきました。しかしながら模型を精巧化して定量的な理論予測をすることは困難です。実験からの情報には限りがあるからです。仮に原子配置などの微視的な情報が得られたとしても、そこから直接模型の精巧化につなげることはできません。励起状態の計算が必要なゆえんがここにあります。

励起状態の計算手法としては、密度汎関数法(DFT)を拡張した時間依存DFT(TD-DFT)が知られています。DFTは基底状態計算のための標準的手法ですが、TD-DFTには少し問題があります。電子と正孔の相互作用の形に問題があるため、一般には計算精度が不十分です。しかし、多粒子グリーン関数法にはこの手の問題はありません。計算時間がかかってもこの手法が選ばれるのはこのためです。

化学の分野では伝統的に波動関数理論を用いて励起状態を計算する手法が開発されてきました。一般に計算量が電子数Nと共に指数関数的(exp(N))に増加するという効率上の問題が知られています。これに対して多粒子グリーン関数法では計算量のサイズ依存性は穏やか(N6)であり、計算効率と計算精度のバランスがとれた計算が行えます。

電子と正孔は物質中を独立に伝搬するのではなく、複雑に相互作用しながら伝搬します。その様子をグリーン関数で表現して計算するのが本手法です。高エネルギー物理でよく用いられるBethe-Salpeter方程式(BSE)と同様の式となることから本手法はBSEとよばれています。BSEは実際には固有値問題に変形してから解を求めます。また特定のFeynman図形を落とす近似を採用して計算を行うため、その近似の名前(GW)をつけてGW+BSE法などとよばれています。

励起状態を計算して実験データと共に解析することにより、光学特性の解明を行っています。最近では上図のような新たに合成された炭素化合物の研究を行うなど、発光素子や太陽電池の材料開発にもつながる基礎研究を行っています。

界面の構造と動力学

界面は計算物質科学の最大のテーマです。バルクでは起こらない様々な現象が界面では起こります。界面を実験的に測定することは非常に困難なので理論計算が重要となります。密度汎関数理論(DFT)を用いた基底状態計算はかなり発展しており、それを用いることにより多様な研究を行うことができます。

中でも固体と水の界面の問題は物理学・化学・生物学すべてに関わる昔から研究されているテーマですが、未解決な問題が数多く残されています。以下のような複雑な事情があるためです。
・水は強力な誘電的性質(\epsilon_r(0)=78)を持ち荷電粒子の安定化に寄与している。
・しかし速い動きにはついていけない(\epsilon_r(\infty)\sim 2)ので動力学が複雑である。
・水素原子核の量子効果が重要である。
・結合は複雑でファンデルワールス力から共有結合に至る様々な成分を持つ。
・相図あるいは構造に関する議論の余地がある。

電極界面の物理


電極と水溶液の界面は根本的な問題の解決が多分野での応用につながるという点でも興味深いテーマです。界面では(中学の理科で習う)水の電気分解や燃料電池反応が起こりますが、誘電性を取り入れた動力学的計算手法が開発された結果、微視的側面の理解が急速に進展しています。当研究室ではDFTに基づく手法を開発しながら、燃料電池反応がなぜ白金で高効率で起こるのか、どのようなメカニズムで起こるのか、白金を超える電極物質はどのようなものがあるのかなど長年の謎の解決につながる基礎研究を行っています。

ホタルの生物発光

生体物質と水の界面も重要なターゲットです。生物発光はノーベル賞を受賞された下村先生の御研究テーマでもありますが、なぜ生体内では非常に効率的な発光が可能なのかなど謎が残っています。ホタルの発光に関してはルシフェリンという分子が担っていますが、その基礎物性に関してすらあまりわかっていません。そこで当研究室では秋山研究室と共同でDFTを用いた長時間シミュレーションを行いました。その結果、ルシフェリンの安定性には水との界面の詳細が大きく関与していることを突き止めました。従来は水の誘電的性質のみが安定性に効いているという考えが支配的でしたが、実はもっと複雑な要因で安定性が決まっていることがわかりました。

 負の誘電率

二種類の固体が作る界面も興味深いテーマです。強誘電体の誘電率は正の値となりますが、電場をかけて分極が変化している途中では誘電率は負の値を取ります(ランダウ理論)。その途中の状態は不安定ですので負の誘電率が測定されることはありません。しかし界面では準安定になることがあります。実際には界面を安定化させようとする様々な要因がありますので、それに打ち勝って準安定状態が実現し得るかどうかを調べる必要があります。DFT計算を用いてそのような可能性を強誘電体と常誘電体が作る薄膜で調べてみると、果たしてそれが実現することがわかってきました。負の誘電率が実現されれば半導体デバイスの微小化が可能になりますので、そのための基礎研究が進んだと言えます。

その他

その他DFT計算と実験との共同研究から酸素固体等の磁性相転移、新たなトポロジカル絶縁体物質などに関する成果が得られています。

数値シミュレーション手法開発

計算物質科学を発展させるためには新たな計算手法を開発し計算対象を開拓する必要があります。そのための理論、アルゴリズム、プログラミングの研究が盛んに行われています。目的は(a)多電子のシュレディンガー方程式を解いて電子状態(基底状態や励起状態 )を求める、(b)最安定な構造を求める、(c)外場に対する応答を計算してフォノン等の素励起を求める、(d)有限温度における熱平衡状態や非平衡のダイナミクスを求めるなど多岐にわたります。最近は巨視的なスケールの様々な物理模型を微視的な立場から構築する研究も増えています。対象となる系には結晶系から化学反応系、生体系を含む物質一般が含まれます。

密度汎関数理論(DFT)は計算物質科学の標準的手法として広く用いられています。この理論は多体系の基底状態が粒子密度(粒子分布)によって一意的に決まるというHohenberg-Kohnの定理から出発するもので、基底状態と粒子密度を対応付ける関数(正確には汎関数)が多くの研究者によって50年余りかけて構築された結果できあがった手法です。しかし電子が強く相関している系(例えば高温超伝導体)や電子が励起状態にある場合などにおける計算の信頼性には問題があります。そのためDFTと異なるアプローチからの手法開発が必要となります。

DFTが適用可能な長さや時間のスケールは巨視的スケールに比べて何桁も小さいので、物性を予測しようとするとスケールを超えるための工夫が必要になります。また、基底状態の周りに準安定状態が密集している場合には最低エネルギー状態をどのように探し出すか、また熱ゆらぎをどのように取り入れるかなどの問題があります。現実物質を扱おうとすると想像を超えるような複雑さに直面します。しかし面白い現象は往々にしてその複雑さに起因しています。

多体波動関数の高精度計算

物質中のN電子系の波動関数は3N次元の反対称な関数で記述されます。その膨大なヒルベルト空間の中から基底状態を決めることは、量子力学の永遠のテーマというべきものです。

波動関数は高階の反対称テンソルで規定されます。これを少数の変数で効率的に記述できれば、より多くの電子を精度良く扱うことが可能になります。そのためには、高階のテンソルを低階のテンソルに分解するtensor decomposition法が有効です。本研究室ではテンソルの数理を用いた高精度計算手法の開発を行っています。

 

多体グリーン関数法に基づく励起状態計算

多電子系の時間依存シュレディンガー方程式に対するグリーン関数を用いて電子状態計算を実際に行うことができます。この方法を用いると基底状態だけでなく光が照射された時に生じるような励起状態の計算を行うことができます。励起した結果電子正孔対(励起子)が生成された系に対しては、グリーン関数はBethe-Salpeter方程式(BSE)に従って時間発展をします。この式を固有値問題に変形して解くのがいわゆるBSE法です。方程式を立てる際、特定のFeynman図形を無視するという近似(例えばGW近似)を取ることになります。本研究室ではGW-BSEのプログラム開発ならびにGW近似を超えたような手法の開発を行っています。

 

界面

界面を誘電率が高い物質(強誘電体や水など)で構成すると、長距離クーロン力が遮蔽されるので帯電した状態が許されます。そのため界面を通した電子やイオンの移動や強烈な電気二重層の生成が起こります。それを利用した現象が物理、化学、生物を問わず一般に起こります。各種電池や生体膜がその典型的な例です。遮蔽長が長いと微視的な現象と巨視的な現象がカップルして興味深い複雑な現象が起こります。それを理解するのが界面研究の目標の一つです。

実際にDFTで計算するためには長距離クーロン力を如何に扱うのか、巨視的な部分との接合をどのように扱って物理計算を行うのかといった色々な問題を解決する必要があります。実はそこにモデリングの面白さが潜んでいます。本研究室では白金と水の界面で起こる燃料電池反応の基礎理論の構築を目指した研究を行っています。また、そこで培った手法を生体物質と水溶液の界面ならびに強誘電体と常誘電体の界面などに適用して界面研究の進化に努めています。

大学院教育

当研究室は理学系研究科(物理)に所属し、大学院生の指導を行っています(これまでの経緯と詳細はこちら)。

Sugino group takes part in the eduation of graduate students as a member of Department of Physics, Graduate School of Science, The University of Tokyo.

(Last update 2015.03.22)