数値シミュレーション手法開発

計算物質科学を発展させるためには新たな計算手法を開発し計算対象を開拓する必要があります。そのための理論、アルゴリズム、プログラミングの研究が盛んに行われています。目的は(a)多電子のシュレディンガー方程式を解いて電子状態(基底状態や励起状態 )を求める、(b)最安定な構造を求める、(c)外場に対する応答を計算してフォノン等の素励起を求める、(d)有限温度における熱平衡状態や非平衡のダイナミクスを求めるなど多岐にわたります。最近は巨視的なスケールの様々な物理模型を微視的な立場から構築する研究も増えています。対象となる系には結晶系から化学反応系、生体系を含む物質一般が含まれます。

密度汎関数理論(DFT)は計算物質科学の標準的手法として広く用いられています。この理論は多体系の基底状態が粒子密度(粒子分布)によって一意的に決まるというHohenberg-Kohnの定理から出発するもので、基底状態と粒子密度を対応付ける関数(正確には汎関数)が多くの研究者によって50年余りかけて構築された結果できあがった手法です。しかし電子が強く相関している系(例えば高温超伝導体)や電子が励起状態にある場合などにおける計算の信頼性には問題があります。そのためDFTと異なるアプローチからの手法開発が必要となります。

DFTが適用可能な長さや時間のスケールは巨視的スケールに比べて何桁も小さいので、物性を予測しようとするとスケールを超えるための工夫が必要になります。また、基底状態の周りに準安定状態が密集している場合には最低エネルギー状態をどのように探し出すか、また熱ゆらぎをどのように取り入れるかなどの問題があります。現実物質を扱おうとすると想像を超えるような複雑さに直面します。しかし面白い現象は往々にしてその複雑さに起因しています。

多体波動関数の高精度計算

物質中のN電子系の波動関数は3N次元の反対称な関数で記述されます。その膨大なヒルベルト空間の中から基底状態を決めることは、量子力学の永遠のテーマというべきものです。

波動関数は高階の反対称テンソルで規定されます。これを少数の変数で効率的に記述できれば、より多くの電子を精度良く扱うことが可能になります。そのためには、高階のテンソルを低階のテンソルに分解するtensor decomposition法が有効です。本研究室ではテンソルの数理を用いた高精度計算手法の開発を行っています。

 

多体グリーン関数法に基づく励起状態計算

多電子系の時間依存シュレディンガー方程式に対するグリーン関数を用いて電子状態計算を実際に行うことができます。この方法を用いると基底状態だけでなく光が照射された時に生じるような励起状態の計算を行うことができます。励起した結果電子正孔対(励起子)が生成された系に対しては、グリーン関数はBethe-Salpeter方程式(BSE)に従って時間発展をします。この式を固有値問題に変形して解くのがいわゆるBSE法です。方程式を立てる際、特定のFeynman図形を無視するという近似(例えばGW近似)を取ることになります。本研究室ではGW-BSEのプログラム開発ならびにGW近似を超えたような手法の開発を行っています。

 

界面

界面を誘電率が高い物質(強誘電体や水など)で構成すると、長距離クーロン力が遮蔽されるので帯電した状態が許されます。そのため界面を通した電子やイオンの移動や強烈な電気二重層の生成が起こります。それを利用した現象が物理、化学、生物を問わず一般に起こります。各種電池や生体膜がその典型的な例です。遮蔽長が長いと微視的な現象と巨視的な現象がカップルして興味深い複雑な現象が起こります。それを理解するのが界面研究の目標の一つです。

実際にDFTで計算するためには長距離クーロン力を如何に扱うのか、巨視的な部分との接合をどのように扱って物理計算を行うのかといった色々な問題を解決する必要があります。実はそこにモデリングの面白さが潜んでいます。本研究室では白金と水の界面で起こる燃料電池反応の基礎理論の構築を目指した研究を行っています。また、そこで培った手法を生体物質と水溶液の界面ならびに強誘電体と常誘電体の界面などに適用して界面研究の進化に努めています。