
| 有効遮蔽体法(Efective Screening Medium: ESM) 帯電した表面の第一原理計算 |
電位を変化させるとフェルミレベルが上下しますが、電荷中性条件を満たそうと電子のポテンシャルもそれに追随して上下します。しかし表面付近では幾何学的な理由(Poisson方程式の境界条件)から完全には追随することができません。その結果表面電荷が発生します。その結果表面状態の電子占有数が変わり表面の安定性が変化します。その変化を第一原理的に計算するための手法が有効遮蔽体法(ESM)です。
よく知られているように帯電した表面をそのままで考えると静電エネルギーが発散します。帯電の結果誘起される反対符号の電荷まで含めて考える必要があります。すなわち遮蔽をあらわに取り入れる必要があります。その遮蔽効果を連続体モデルにより導入するのがESMの基本的な考え方で、それを局所的誘電率ε(r)あるいは古典的誘起電荷ρc(r)を用いて表すのが現在のバージョンのESMです。
例えばSTM探針を用いて電位をかける場合を考えてみます。STMが表面から十分に離れている場合には探針は誘電率が無限大の連続体としてモデル化することができます。表面電荷は連続体に誘起された電荷により補償され、全体で中性となりエネルギーの発散は避けることができます。
電子系は表面に束縛されているのでその波動関数は探針にまで及ばないと考えることができます。電子系は探針が作る静電ポテンシャルを通してのみ影響を受けます。そのためシュレディンガー方程式(Kohn-Sham方程式)は束縛されているという境界条件のまま解くことができます。Poisson方程式の境界条件だけが探針の存在によって複雑なものになります。その結果Poisson方程式の解法を変えてやればこのSTMの系が計算できるようになります。
ESMの基本方程式は
Kohn-Sham方程式
Poisson方程式
であり、これらは密度汎関数
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から変分的に導くことができます。電荷密度は
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で表されます。フェルミレベルEFは真空レベルやSTM電極レベルからの差としてあらかじめ与えておきます。これによりフェルミレベル一定の計算となります。
なお、細かいことですが、ESMでは上述のように電子密度とESM領域(誘電率が1以外の値を持つ領域)が空間的に離れている必要があります。そうでないと電子の遮蔽とESMの遮蔽が重複して考慮されてしまうためです。また、電子密度とESM領域に重なりがあると電流が生じてしまうためでもあります。
上ではSTMを例に説明しましたが、有限の誘電率を導入することにより誘電体に接する表面系の計算ができます。ε=78.4を用いれば水との界面のモデルとなります。ただし、εが有限の場合は遮蔽が不完全となるため、誘起電荷rcも同時に導入する必要があります。それにはρcがボルツマン統計に従うとするPoisson-Boltzmannモデルなどを用いることができます。なお、ε=1とすれば単に超高真空表面のモデルになります。
ESM法は現在の所、誘電率が表面垂直方向にのみ依存し、かつ、Poisson方程式のGreen関数が解析的に計算できる場合に限ってimplementされています。その場合、第一原理計算プログラムをほとんど変更することなく計算ができるためです。標準的な第一原理計算と比べても計算量がほとんど増加しません。そのため第一原理計算が可能であれば、その表面系に対してはESM計算も可能となります。
ESM法は現在、Pt等の金属と水の界面、Si等の半導体表面とSTMの系、またはカーボンナノチューブとbackgateの系、などに対する応用計算が行われており、その効用が明らかになりつつあります。
Minoru Otani and Osamu Sugino, "First-principles calculation of charged
surfaces/interfaces: A planewave non-repeated slab approach"Phys.
Rev. B 73 115407 (2006)
Osamu Sugino, Ikutaro Hamada, Minoru Otani, Yasuharu Okamoto, and Tamio
Ikeshoji, "First-Principles Molecular Dynamics Simulation of biased
Electrode/Solution Interface" to be pulished in Surf. Sci. (2007)
See also,
Mutsumi Tomonari and Osamu Sugino, "DFT calculation of vibrational
frequency of hydrogen atoms on Pt electrodes: Analysis of the electric
field dependence of the Pt-H stretching frequency" to be published
in Chem. Phys. Lett. (2007).
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